正福寺霊園 想盆

東京都墨田区, Japan
Foto © Masao Nishikawa

墓地形式と社会構造のミスマッチ

都市部にある寺院をGoogle mapの航空写真で見ていると敷地に占める墓地の大きさが境内に比べると遥かに大きいことに驚かされることは少なくない。広大な墓地が寺院境内を圧迫、その聖域性に影響を与えていることは想像に難くない。ズームインすると、整然と並ぶ区画の中に所々墓じまい等による空白があり、まだらになっていることが確認できる。ストリートビューでその周辺を見れば、その多くは条例の影響で長大な塀として現れ、街並みに少なからず圧迫感を与えている。
近年、日本の年間死亡者数は増加の一途を辿り2040年には年間160万人に達すると予想され、収骨施設の需要は増加しているにも関わらず、江戸時代から続く寺檀制度及びその後の人口増加と、家族規模の縮小や祖先崇拝の衰退など変化した社会構造との間のミスマッチや制度の機能不全がこうした風景を生み出している。変わりゆく社会構造や家族制度にマッチし、寺院の聖域性を強化しつつ街並みに貢献できる収骨施設を計画したいと考えた。
 
 
平面充填による配置計画

都市部にある寺院の余地は限られている。計画地である墨田区正福寺では駐車場の一部約100m2の敷地に樹木葬として461区画を配置しなければならなかった。樹木葬の基本的な構成は、手前の墓誌+奥の参拝対象としての樹木なので、それが集合したかたちは樹木を中心とする正円が合理的である。その円の直径は樹高2mの根鉢に必要な大きさφ800を中心に、墓石にするφ200程度のごろた石を墓誌が目視できる限界3列で囲み、柵を含めφ2300の島とした。この島を約100m2の敷地に条例で定められた参道幅員1mを確保しながらできる限り多く詰め込まなければならない。ある一定の面積の平面を隙間なく多角形で敷き詰める場合、外周長さを最小化しつつ敷き詰めることができる多角形は「正六角形」であることが数学的に証明されている。正六角形のグリッド上に樹木葬の島を並べることで、参道長さを最小化しつつ墓地区画を最大化することができた。周縁部分の岬状に突き出た部分も区画になっている。各島や岬に配置した献花焼香台は参拝者が背中合わせにならないように互いにずらしてある。
 
 
伽藍に付属する回遊式庭園

伝統寺院は本来その伽藍配置と付属する庭園や参道、そして結界を暗示する緑地、段差、門、扉、柵、灯籠や手水鉢等添景物を重層化することによって奥行きをつくり、空間的聖域性を維持してきた。都市部にある寺院は都市化による敷地の減少、墓域の拡大によって聖域性を維持するのが難しくなってきている。そこで『想盆』は墓地ではあるが伽藍に付属する回遊式庭園として計画することにした。苔蒸した飛び石のアプローチや縄が架けられた2対の石柱が境内/墓域の結界になり、シュロ縄で十文字に縛られた関守石による墓石が、関守石より上の草木で覆われた「生」の世界/関守石より下のカロート=「死」の世界の結界になり、結界が重層化している。各樹木葬の柵はしなやかで折れにくい竹の力学的特性を利用したしがらみ竹でできていて、傷んだ割竹は随時手入れをし続ける必要がある。しばしば交換したばかりの真緑の割竹が所々まばらに見えることになり、『想盆』はひと時として同じ姿であることはない。
 
 
街並みに江戸の面影を偲ばせる

正福寺は、かつて江戸前と呼ばれていた地域にあり、周辺にはその面影を残す料亭等が僅かに残っている。かつては建仁寺垣や関守石がある茶庭が街のそこかしこにあったと推測される。樹木葬をこれら江戸の面影のかけらで構成することで、墓地を味気ない塀で囲み、街並みに背を向けるよりは、「侘び寂び」や「江戸文化の粋」として参加させたいと考えた。街行く人が建仁寺垣を超えて伸びる樹木を見ても、誰も墓地とは思わないであろう。

Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Foto © Masao Nishikawa
Año
2024

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